前代表社員長崎真人自分史
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第一部】第十四話 台湾軍に編入される(10
 

 この日、B29の大編隊が台北市に対し絨毯爆撃を加えたのであった。空襲が去った後、急ぎ足で行くと、町中至る所、1トン爆弾の大穴が開いていた。威容を誇った総督府の塔は、5階建ての左肩が崩れ落ち地下まで達していた。
母校は幸い無事だった。
 帰路、叔父の家があった福住町を通って見た。刑務所の塀の周りには幾つもの穴が開き、子供のころドンコ釣りに来た池のほとりには、黄牛が腸を出して死んでいた。
 大正街の浦川さんの家にも寄って見た。無人の廃屋の如く、門は半ば倒れ、玄関のガラス戸には幾つもの弾痕が痛ましかった。1年前、その玄関先に三つ指ついて、私の胸に青春の日のそこはかとない想いを抱かせてくれた、あの黒髪の少女の面影は尋ねるべくもなかった。

 
修復され威容を保つ総統府

空襲前の元台湾総督府の威容