前代表社員長崎真人自分史
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第一部】第十四話 台湾軍に編入される(10
 

 戦後知ったところによれば、このような処置は台湾だけの事であったようだ。
 これが、どのような法的根拠によったものだったのか明確でないのだが、植民地台湾では、台湾総督が天皇の絶対権限を代行していたのであり、一時期を除き歴代総督は陸海の将軍が歴任、特にこの時期、最後の台湾総督となった安藤利吉は、台湾軍司令官を兼任していたのであるから、非常に臨み、その権限でどのような超法規的処置も取りえたであろう。
 天皇の名をもってすれば、如何なる処置もなしえない事はなかった。そんな時代であった。

 
 哀れに思ったのは、この四月に入学する予定だった新しい一年生達であった。予定を早めて七星寮に入ってきたこの人たちは、憧れの白線二条をかぶる暇もなかった。入学即入隊であった。まるでその僅かな一瞬に、高校生活の名残の総てをむさぼるかのように、先輩となった我々二年生にあれこれ質問の矢を放ち、一曲でもと寮歌演習をせがむのであった。
 私は、寮委員になっていたので、この人たちの世話に追われて、家に別れの手紙を書く暇もなかった。手紙を出したとしても恐らく届きはしなかったであろう。
芭蕉の葉を型取った旧制台北高等学校の徽章、白線二条は、かつて旧制高校のシンボルでした