前代表社員長崎真人自分史
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第一部】第十四話 台湾軍に編入される(10
 

 この基地にさえ制空権は全くなかった。突然バリバリと言う機銃掃射に振り向くと、もう手の届きそうな近さに敵機が迫っていた。コンソリデーデッドB25だった。海岸線からエンジンを止めて超低空で侵入して来るのであった。
 蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う我々の頭上に、無数の落下傘爆弾が青空に漂う花のように鮮やかであった。これは缶詰状の時限爆弾で、その後1週間程、夜となく昼となく台地のあちこちで炸裂した。

敵機
 
総督府に1トン爆弾が命中 台北大空襲に出会う

 ある日の事(兵隊には暦も判らなかったが、後年の調査によれば、この日は5月31日)私は、他の学徒兵1名と共に、台北の母校にある司令部に伝令に出された。
 淡水渓を渡り市街地に入ると人っ子一人いなかった。大稲から建成町の辺りへ差し掛かる所だった。空を覆う爆音がして間もなく、ザザァと言うスコールのような音、二人は慌てて隠れるところを探したが、台湾人街はどこも戸を堅く閉ざして、石畳の道には退避壕もない。軒下にピタリと伏せた腹にドドンと強烈な振動が伝わる。そっと顔を上げて見ると、今しも、数十メートル先の煉瓦造りの商店街が軒並みガラガラと崩れ落ちていた。