前代表社員長崎真人自分史
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第一部】第十六話 廃校・旧制台北高校の苦悩(
 
優秀だった台湾人同窓 皇民化教育の光と影

 台湾人で最初の台湾総統になった李登輝氏を知る人は多い。卓抜した政治力で、戦後永く外省人(戦後台湾を占領支配した大陸渡来の中国人)の独占的強圧的な支配下にあった台湾を開放して自由化・民主化を達成し、世界有数の外貨保有高を誇る素晴らしい経済発展を成し遂げ、何よりも「台湾人」の誇りを取り戻した功績は台湾の政治史に輝く。
 その李登輝氏は私の3年先輩の台北高校出身。彼を筆頭に、台湾の各界でリーダーシップをとる逸材の殆どは、台北高校卒業生で台北帝大あるいは東大、京大をはじめ日本内地の大学出身者で占められる。
 
 植民地台湾では、日本統治の晩期、戦争遂行を目的として徹底した皇民化教育を実施し、台湾人を文化的精神的に同化する政策が強力に進められた。
欧米の植民地では殆ど類例を見ない事のようだが、台湾人児童の就学率は70%を越え、徹底した日本語教育が行われた。「一視同仁」の名で行われた同化教育が、一面台湾人の教育水準を高めた事は評価してよいのかも知れない。
しかしその半面、台湾固有の文化、言語も宗教も習慣も、固有のものすべてが抑圧され奪い去られ、台湾人が今に至ってアイデンティテイに苦悩する基をつくった罪は深い。
同化政策は、本質的に平等を目指したものではなかったし、実際上も、教育の機会均等は程遠く、最後まで差別はなくならなかった。