前代表社員長崎真人自分史
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第一部】第十六話 廃校・旧制台北高校の苦悩(
 
緊迫した七星寮最後の寮生大会日本人寮委員全員の退陣

 外から伝わる不穏なニュースに比して、事もなく過ぎるかと思われた台北高校にも、11月に入ると何やら不気味な空気が漂い始めた。
 七星寮にも、急進派の台湾人学生が数人いて、戦時下も台中方面で地下活動を続けていたグループに連絡があると言う一人が、特に激しく日本人学生排撃の運動を始めたのだ。
 寮生大会が開かれ、日本人の寮委員全員の退陣を求める動議が提出された。

 重苦しく沈痛な空気だった。日本人学生は総て沈黙していた。張り詰めた空気が限界に達するかと思われた瞬間、「議長」と叫び一人の学生が立ち上がった。 必死の形相だった。
 
 
 この男は、巨漢にして容貌魁偉、にも拘らずどこかセンチで、人懐っこい性格が皆に愛されていた。高砂族と日本人の混血だと言う噂だった。
  「みんな冷静になってくれ。俺たちは皆同じ台北高校の学徒だ。高校生の誇りを持とう。俺たちは真理を愛する。国は異なっても国境を越えて世界人類としての友情を守ろうではないか」声涙共に下る名演説だった。
 対立していた空気がこの発言で一挙に和らいだ。共に学ぶインテリゲンチャとしての理性とブライドが、辛うじて抑え難い感情の昂ぶりを制したと言って良いだろう。

寮生大会