| |
閑話休題
これより数ヶ月前、すでに我がマリアナ諸島の守備隊は、圧倒的に優勢な敵軍の物量作戦の前に、奮戦空しく次々に玉砕していた。米軍によるレイテ島を始めとする比島奪還作戦も本格化していた。すでに連合艦隊の主力も航空戦力も失い、これらの諸島を基地とした敵軍の本土空襲さえ始まっていた中で、台湾は孤立し突出した状態に陥っていた。
間もなく台湾全島は、B24による連日の空襲に曝されるようになった。台北を取り巻く高射砲陣地が一斉に火を噴き、敵編隊の一機に見事命中、防空壕から躍り上がって喜んだのは、最初の一回だけだった。やがて敵機は、昼となく夜となく我が物顔に台湾上空を飛び回るようになった。 |
|
 |
１２月暮、私は、高雄に引越していた我が家に、戦時下最初で最後の帰省をした。我が家は防空壕の中であった。
昼間は、敵機の目を盗んで地上に出て御飯を炊き、夜は、庭に掘られた畳2枚ほどの防空壕の中に布団を持ち込み折り重なるようにして寝ていた。父と私とは、ジメジメした壕内を嫌って、防空頭巾に巻脚絆のいでたちのまま縁側にごろ寝した。
頭上には敵機の爆音が聞こえ、サーチライトの光が入り乱れて美しかった。敵機は1機か2機、神経戦のように一晩中上空を飛びまわり、時にパラシュート付きの照明弾を落として帰って行った。それが何時までも頭上に漂っていて不気味だった。 |
|
|
