【
第一部
】第十三話
憧れの台北高校へ(
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この年二月中旬、私は単身、台北高校受験のため花蓮港から台北へ向かった。受験中の宿は、母が頼んでおいてくれて、大正街の浦川さんのお世話になった。
浦川さんは、かって私の出生地・五堵で炭鉱の仕事をして居られて、我が家とは、それ以来のお付き合い。大正街は、比較的裕福な日本人専用の、シットリと落着いたムードを持った住宅地。浦川さん方では、広い客間の一室を当てて下さって、温かい心遣いで受験生を遇して下さった。
まさに、体当たりの受験であった。1年ぶりに出てきた台北は花蓮港とは比較にならない大都会だった。すっかり田舎者になった少年を迎えた眼前の高校の塀は思いのほか高く、試験場で久しぶりに顔を合わせた台北一中の恩師もクラスメートも最早他人であった。
自分独りの1年間の勉強が果たして的確なものであったかどうか、見当は何も判らなかった。
数学の試験など私には見た事もない問題だった。出題する高校の先生は、試験範囲に拘らず一ひねりした問題を出して、受験生をはぐらかして楽しむのだと言う噂だった。