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石井部長は、私に待つように言い、暫くして書記局が面接すると言う事で、また迷路のような廊下伝いに、奥まった部屋に連れて行かれた。
私は、私の党本部への採用については当然、万端の話がついていたものだと信じていたので、今更面接とは何だろうかと、一寸変な気がした。
書記局と言うのは、党本部の一番中枢にあたる部署、いささか緊張したが、面接したのは、労働者風の小柄ながら背中に丸く筋肉がついたような、ガッシリとした体躯の同志が独り、面接と言うよりも顔見せという程度の事で、別段何もなかった。しかし、愛想も何もない。ご苦労さんでも宜しくでもない。
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最初の一瞬、全てを見抜くような鋭い一瞥を加えられたのが気になった。
ここは、激烈なる階級闘争の最高司令部なのである。目つきも表情もオットリした田舎っぺの私が、こんなところに来て良かったのだろうか、何か役に立つ事ができるのだろうかと、そんな気にさせられた。
それから1週間、党本部に通ったが、何もする事がなかった。何をしたら良いのか何の指示もなかった。部長も、格別忙しい何かがあると言う風でもなく、書類に目を通したり、一寸何か書いたりの程度。それでも夜になると、民科(民主主義科学者協会)関係の同志や、工大や慶応医学部の学生の同志が来て、会議をやったりして、帰りは結構遅くなった。 |
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