前代表社員長崎真人自分史
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第三部】第七話 築地警察署勾留23日()
 
「どうか健康に留意されて」と刑事課長が見送りの挨拶
 ところが署に帰って1時間ほどすると、釈放だと伝えられた。引取りが来るまで暫く待つようにと言う事だった。
 私は親しくなったポン引きのふたりと再会の約束をして出迎えを待った。
 留置所を出た廊下の中ごろに、刑事課長が待っていて私にこう挨拶した。
 「お互い立場は異なるが、国を思う気持ちに変わりはあるまい。また前線で相見えることもあろうかと思うが、どうかそれまで健康には充分留意されて御活躍あらんことを祈ります」と。まだ30代ではなかったかと思う。
 
幹部候補生上がりの将校だったのではないかと推測させる古武士然とした男だった。築地にきて最初に取調べを受けただけだったが、この男が担当で私をずっと見ていたのだろう。大時代な物言いながら礼儀正しい見送りの挨拶だった。
ぶくぶくに太って築地署を出る
 迎えに来てくれたのは、私に宿を貸してくれていた木場の同志だった。なんだこれでは私の住所は割れていたと言う事か。
 それにしても、仕事を休んで迎えに来てくれた同志の手前、私は恥ずかしかった。何だって、23日間に私の頬は真ん丸に太って、本物の「別荘」でゆっくり静養してきたような顔つきになっていたのだから。