前代表社員長崎真人自分史
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第二部】第三話 第二の故郷 農林省農事試験場鴻巣試験地へ()
 
 食糧難は、ここでも同じく配給が乏しくて、サツマイモや大豆粉のスイトンで空腹を癒す毎日だったが、さすが農事試験場だけあって、田畑は耕しきれないほどあったので、研究員も皆で耕作に従事し、その作物で月に一度は満腹を味わう事が出来た。
 有難かったのは、先輩も同僚も皆暖かい人柄が揃っていた事だった。満足に何も出来ない私を「真人さん」「マヒトさん」と呼んで可愛がってくれた。兄が何かと庇ってくれたのも有難かった。

 それだけに、間もなく兄が、もとの幹部用の宿舎に帰り、独りになると私は物思いに耽りがちになった。村松では物思いに耽る余裕などなかったのだが、ここに来て、周囲の人たちの親切に包まれて、ようやく自分の人生を振り返るゆとりが出来たとも言えた。
 
心も凍る赤城おろしの空っ風に眠れぬ幾夜を過ごして
 足早にやってきた初めての内地の冬は、心も凍る寒さだった。広い圃場のはずれにある宿舎は吹きっさらしで、赤城おろしの空っ風を遮るものは何もなかった。配給の木炭は僅かだったので、火鉢に紙を燃して凍えた手をあぶった。布団も村松から持ってきたのは、夏がけの上下だけだった。引揚者用の配給で、毛布と軍隊用のマント一着を貰ったので助かったが,それとても初めての内地の冬の寒さを防ぐには到底足りなかった。

 私は、身を固くして眠れぬ夜を幾夜も幾夜も考え明かした。