事務所ニュースNo.259 2014.7.1 TOPへもどる 前号 次号

7月の税務・労務

*源泉所得税の納付(納期の特例の源泉税は1月から6月分の給与・賞与・報酬)

7月10日まで

*所得税予定納税の第1期分

7月31日まで

*所得税予定納税の減額申請

7月15日まで

*労働保険の概算・確定保険料の申告及び納付

7月10日まで

*社会保険(健康保険料・厚生年金保険料)の報酬月額算定基礎届

7月10日まで

東京税理士会年次総会
「君が代」斉唱で幕明け 税理士会は国の機関か?!

6月18日、東京税理士会 第58回総会が開かれ、初めて参加しました。
会員21,345名のうち出席者は510余名、委任状が12,497名。(総会は委任状を含めた出席者の1/2以上で成立。すでに委任状だけで議案に対する賛成が過半数を超えているので、セレモニー的な総会。)
しかし、度肝を抜かれたことは「君が代」斉唱で開会の幕開けが行われたこと。毎年参加している人に聞いたところ「今まではなかった。今年初めてのこと。どうしてこうなったのだろう。」と訝っていました。
いま、集団的自衛権、憲法9条改憲解釈、法人税減税、消費税増税、マイナンバー導入等々、税の使い方・取り方に大きな関心が寄せられている時、「税の専門家集団」と言われている税理士会が、その総会を「君が代」斉唱から始めたことに大きな違和感を覚えた。 これでは「税理士会」という組織は、納税者の立場に立ち、納税者の権利を守る組織というより国・国税庁の代理機関と疑われてもしょうがないかもしれない。

神津会長が開会あいさつで述べていた「記念すべき総会」の意味が、58回の総会の歴史上はじめてとりいれた(これまで歌った気憶がないといわれている)「君が代」斉唱にあったとは思いたくないが…

米国研修旅日記

6月2日から9日まで、米国シアトル(SA)、ポートランド(PL)、サンフランシスコ(SF)の税務行政視察の旅に参加した。 平成19年9月にワシントンDCに行き米国内国歳入庁(IRS)の税務行政視察以来、7年ぶりの訪米となった。視察団の公式報告は別途されるので、ここでは何を見、何を感じたか、個人的主観を交えた旅日記として報告します。

6月2日 午後6時 成田を出発
米国時間 6月2日午後2時30分 ワシントン州・シアトル(SA)空港着。ホテルへの道すがらSA市内見学(パイクプレイスマーケット、スタ―バックス1号店、セーフィコ球場等)。
SAは稚内よりさらに北70㎞付近に位置するが、カリフォルニア海流等の影響で真冬でもほとんど雪が降らず、気温も0度を下回ることはほとんどないという。市内の街路樹はほとんどが楓で青々と茂っている。
シアトルマリナーズ/イチロー、岩隈ぐらいしか知らなかったが、ロッキード、マイクロソフト、アマゾン、スタ―バックスなどの大手企業やビルゲイツの財団(世界最大の財団)、そしてビルゲイツが湖畔に広大な私邸を構えているという。
市内を散策すると、男性も女性も何とたくましい人が多いことか。胸もお尻も余りの大きさに圧倒されてしまう。(映画やテレビで見るスマートな体形の人は何処にいるのだろうと考えてしまった。)パイクプレイスマーケットで果物を購入したが領収書はなかった。この場合の売上税はどうなるのか聞き忘れた。


6月3日
早めに目が覚めたのでシアトルタワーまで散歩する。途中の公園でリスが2匹。怖がりもせず、餌を拾っていた。ガソリンスタンドの値段表示はレギュラ―ガソリン1ガロン(約3.8ℓ)4.3ドル。(日本円に換算して1ℓ115円程度か。 7年前は40円程度だったと思う。日本より値上がり率が高いか)
ホテルでの朝食。パン・コーヒー・バナナ・ハム・ゆで卵。米国の典型的な朝食スタイルという。(野菜類は全くなし) 私が毎日食べているのとほとんど変わりがないが、日本でホテルや旅館に泊まった時の朝食バイキングと種類や色どりが全く違う(宿泊したホテルの格にもよるかな?) しかし同宿していた米国の人々は、パン数枚・ゆで卵3個等、私の3倍の量を談笑しながら食していた。

SAからオレゴン州ポートランド(PL)への移動日。ハイウェイ5号線をひたすらバスで南下。途中、ワシントン州の州都オリンピアに立ち寄り、州議会議事堂見学。なお、ワシントン州の特徴的な税制は州個人・法人所得税がないことか。(州税の基本は小売売上税、固定資産税、事業税等)
午後2時、PLの今日の宿泊ホテルに到着。
オレゴン州は林業と農業の地で、PLは日本への農産物の一大輸出港。「オレゴンからの愛」で知られているように日本からの移民も多かったという。また、アメリカ富士といわれるセント・へレンズ山の大爆発で知られているところ。
遅い昼食後、PL市内散策。街は緑も多く落ち着いた感じだが、現地添乗員から「ホームレスも多いので、もし、何か声をかけられたら相手の目を見て『アイム・グッド』と大きな声で言ってください」、「チャイナタウン地域は絶対一人で歩かないように」とのアドバイス。


6月4日
午前中は、オレゴン州の州都セイラムにあるオレゴン州税務局を訪問。
州税務局の個人所得税及びコンプライアンス担当のマネージョー/メガン・デニソンさん(女性)に州の税制・税務行政の説明を受ける。
州税のもっとも大きな特徴は「小売売上税」がないこと。州税の87%が個人所得税(5%〜9%)、他に固定資産税、法人税。歳出の50%が教育費、26%が社会福祉、13%が警察・消防。州税申告(186万件)の80%は電子申告。残りが紙申告。
電子申告はIRS、オレゴン州税務局、会計事務所・税務代理人、サービス会社の4社で共同推進している。徴税費用も電子申告は100円、紙申告は850円かかる。また、電子申告は監査(調査)の時にも有効である。しかし、一方なりすまし還付申告や詐欺行為も増えている。(昨年は5億5千万円の被害。今年は500件・1億5千万円)
税務局の人員は所得税関係150人、徴収関係50人ぐらい。監査(調査)は1%程度行われている。IRSの納税者権利憲章のようなものはオレゴン州では作られていない。また、納税者擁護官制度も州にはない。
デニソンさんが身分証明を下げているストラップには
「Our Strength Is Our People」(我々の力は我々国民=どういう意味か聞くのを忘れた)の標語が印刷されていた。
通訳が税制について不慣れなようで、相互の意思疎通が不十分だったことが残念だった。

午後、日本企業の「TCI」訪問。
PLには味の素やキッコーマンなど、食品関係の日本企業が多く進出しているという。
TCIは30年前にPLに米国会社を設立。広々とした敷地に、オフィス棟、研究・工場があり、桜・モミの木など緑豊かな環境。
米国進出の最も大きな理由は「日本で製造・輸出するのではチャンスを逃してしまう。消費者に近いところで、消費者のニーズに素早く応えるために」であり、「当時、オレゴン州政府の企業誘致政策もあり、また、TCIの方針とも合った」、「将来は本社機能を米国に移すことも考えられている。本社機能移転は企業のグローバル化に素早く対応するためであり、法人税云々のためではない」
税やTPP問題について尋ねたところ、「税に関する事項については、全て会計事務所に依頼しており詳しくは把握していないが、租税条約や価格移転税制については細心の注意を払い、事前の相談を欠かさない。」、「TPPは日本にとってポリティカルな問題となっているが、当社ではまったく問題になっていない。影響が出るかどうか今は何とも言えない。」等々、約90分にわたり説明を受けた。
そういえば、オフィス内の従業員はみなスマートな人だった。


6月5日
PLからサンフランシスコ(SF)に移動。9時ホテルを出発。 国内移動だが搭乗手続きは厳しく、ベルト、靴、帽子等をとることはもとより、丁寧なボディチェックを受けようやく12時30分搭乗となった。 午後2時30分 SF空港着。
空港からSFダウンタウン地域のホテルへ。途中ツインピークスの丘からSFの街を一望。
しかし、霧の街と言われSFは全ぼうを見せることはなく、一瞬の霧の晴間にその一部をみせてくれた。ゴールデンブリッジ、SF市庁舎、サンフランシスコ平和条約締結(1951年9月8日)の会場となったオペラハウスなどを見学し、夕食の場フィッシャーマンズワーフへ。
SFは人口80万、うち中国系が20万人もいるという。
SFの対岸の街オークランドや、シリコンバレーの周辺人口は約700万人。SFは金融やIT企業が集中している西海岸地域の重要都市。SF郊外の住宅の値段は2〜3億円、賃料は月2,000〜2,500ドル。それでもほとんど空きがないという。
ダウンタウン街を歩いて一番驚くことは、「ホームレス」がとにかく多いこと。
フィッシャーマンズワーフで夕食後、外の喫煙所でたばこを吸っていると、小柄な若い白人(メキシコ系か?)が寄ってきて20ドルを手に「煙草をくれ」という仕草をしてきた。英語を理解できない我が身としては早々にその場を離れることにした。「一人で絶対歩き回らないこと」とくぎを刺されたことがよくわかった。
米国の「不法移民者」といわれる人々は、政府の2009年発表で1,075万人(一説では2千万人とも云われている)。内260万人がカリフォルニア州に滞在。また、1,075万人の内665万人はメキシコからの入国者となっている。
新しい移民法が成立し、市民権獲得が容易になるといわれているが、この人たちの働く場は本当にあるのだろうか。
ITや金融で何億も稼ぎ出す人がいる一方での現実は何とも厳しい。


6月6日
今日はSFの対岸・オークランド市にある「TPPに反対する市民団体」との交流。午後はシリコンバレーの一角サンノゼ市に事務所を構える会計事務所を訪問。
オークランド市にあるNPO市民団体「リバー・ビデオ・プロジェクト」でサンノゼ大学労働学科長/ジム・ケリー教授から「労働者・労働組合の立場からみるTPP」と題したTPPの問題点の講義を受けた。

①TPPの一番大きな問題点は、何が議論され、どのように決定されていくのか全く秘密にされ、参加型民主主義が壊されようとしていること。

②TPPが労働にどのような影響を与えるのか、雇用はどうなるのか大きな懸念がある。

③進歩的な団体からは反対の声が出ている。

④TPPをみる場合、ナフタ(NAFT=2000年に締結された北米自由貿易協定)の結果をみると良くわかる。ナフタ締結後、メキシコの中心的な農作物・トウモロコシ市場は、米国の大手企業に奪われ壊滅的な打撃を受けている。農家の収入低下、農業就労人口の激変(これがメキシコから米国への不法入国増加につながっているのか)、ペソの価値低下とつながっている。

⑤TPPにはナフタにも規定されている「ISD条項」(投資家対国家間紛争条項)があり、投資家が手厚く保護されている。

⑥自動車問題は重要な問題だ。規制を強化しなければならない。

⑦TPP交渉はファーストトラック(大統領貿易促進権限)で行われているが、ファーストトラック制度の反社会性を訴えていかなければならない。

⑧TPPには3つの団体(鉄鋼労働者、情報産業労働者、トラック運転手組合など)が反対してきた。しかし、弁護士や会計士、IT産業、金融産業などは組織されていない。

⑨金融政策や労働者権利を保護する土俵をつくらなければならない。

⑩TPPは、修正させるのか、無くすのか、それとも別の仕組みをつくるのか。

⑪全国で反対運動を作り上げるためにどうするか。また、海外との協力・連携をどう作っていくのか今後の課題だ。そのためには、TPPを正しく理解する必要がある。

TPPが導入されたら日本の税理士制度がどう変わるのか不明だが、国民生活が大きく変化することはメキシコの例からみても確かなようだ。
米国内にTPPに反対している団体や組織があることが見聞でき、今後の運動に生かさなければならないと改めて感じた。

午後はオークランドから80㎞南下し、サンノゼ市へ移動。
ここはシリコンバレー地域(サンマテオからサンノゼ一帯)の南端地域。IT企業を中心に250社ほどが集中しているオフィス街の一角にある会計事務所「EOS会計事務所」を訪問。
日本人の会計士2名が交互に米国税務行政について説明してくれた。
IRSの1998年改革後の状況は、2007年視察の後に東京税財政研究センターがまとめた『振り子の米国歳入庁』に詳しく載っているが、その後どう変化してきたか事前にいくつかの質問を出していたので、また、日本語で説明してくれたので概ね理解することが出来た。
特に興味深かった説明は、2014年年次報告の納税者権利憲章の項。

*納税者権利憲章を知っているか…11%

*IRSにかかった109億本の電話のうちつながった件数…61%(15〜30分またないと繋がらないことが多い)

*8億4千枚の手紙のうち未処理の件数…53%

*IRS職員は9万5千人から8万7千人に減少

*職員研修費が172億円から22億円

*IRS第4次改革法は、2013年7月下院を通過し上院で審議されているが、まだ施行されていない。(権利憲章の一部が変更される)

*会計事務所の立場から見て、2000年以降IRS職員の態度は変化したとは思えない。むしろ手続きが面倒になり、やりにくくなった。常に文書でやり取りを残しておかなければならず、かかる時間ほど効果が上がったとは思えない。

税務調査の事例をもとにその手続き、調査方法、結果の通知など具体的に説明してくれた。
また、TPPと日本の税理士制度について、「外国人に日本の税法を理解することは難しいと思う。日本語も難しい。」、「米国の会計士が税理士行為を行うことは難しいのではないか。」との感想を述べていた。
その後、事務室内を案内してくれたが、職員一人一人机が仕切られており、ゆったりした事務室だった。
帰りはシリコンバレー一帯、スタンフォード大学を遠くに見ながらハイウェイを北上しSFへ。


6月7日
一日自由行動。そうはいっても、一人でSFの街を歩く勇気はないので、みんなと一緒にSFからゴールデンブリッジを通り北へ約130㎞・ナパ渓谷へ。
ここはカリフォルニアワインの一大生産地。この地は雨が少なく寒暖の差が大きいという。当日のSFの朝の気温は12〜13度、ナパの昼の気温は約30度。しかし木陰に入れば暑さはほとんど感じない。
見わたす限りのぶどう畑。「ナパのワインはフランスワインより高級。日本のワインは砂糖を入れて醗酵を促している。」などなど案内人の講釈を聞きながら、おいしいワインを試飲してきた(当然だが1か所につき15ドルの試飲料がとられる)。

午後4時過ぎホテルへ。夕食までの間、ホテルの近くのユニオンスクエアでお土産を物色。現地案内人に「日本人は人前で平気で財布を出すが、絶対にそのようなことはしないこと。レジで後ろに並んでいても気にせずゆっくりやること。」等々注意を受けていたので、買い物も緊張してなかなか進まなかった。


6月8日
帰国・SF空港での出国検査もやはり厳しい。日本時間 6月9日午後3時 成田着。
8日間の旅が終わった。
視察の詳しい内容は「視察団報告書」が出されることになっているので、今回は日記風に報告しました。
短い時間、アメリカのほんの一部の地域の旅だったが、景気回復が言われる中で貧富の差がますます拡大していることや、アメリカの民主主義は「金次第」との思いが頭をよぎった。
税務行政についても会計事務所の会計士が言っていたように、納税者サービス拡大より調査徴収に力点が移っていることが感じられた。

(永沢晃)



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